語源の広場

『英語耳』松澤喜好、『日本語と英語をつなぐ』すずきひろし、『Gogengo!』角掛拓未が送る、英語の語源をさまざまな切り口でお伝えするコンテンツです。

語源の窓 第6話

接頭辞も2500年前にあった


 今回は英語で重要な「接頭辞」を11個選びました。英語の接頭辞+語根という構造は2500年前のラテン語ですでに完成していました。このこと自体が驚きですが、2500年前の「接頭辞」が現在も英語に同じ意味で使われていることが更なる驚きです。

 

 このページの最後に2500年前のラテン語の接頭辞をラテン語mittere(送る)を例に17のラテン語単語で表しています。

 

 接頭辞については、語源の広場>黄金の接頭辞のところで詳しく書いていますので、そちらもご覧ください。


 前回の第5話の課題に共通する語源はferre(運ぶ)というラテン語です。
offerはof-(人の)前に+fer(どうぞと)運ぶ。

sufferはsuf-下から(重いもの、つらいこと)を支えて運ぶ様子。

transferはtrans-横切ってfer-運ぶ、です。

 f:id:gogen_wisdom:20170327005146p:plain

 以下にラテン語ferreと組み合わせて16個の接頭辞を紹介します。黄金の接頭辞(11個)よりも数は多くなっています。黄金の接頭辞はとても用使われる接頭辞を厳選しています。

 この16個の接頭辞のうちで、黄金の接頭辞11個に含まれないモノは CIRCUM, INTER, SUPER, TRANS,。黄金の接頭辞ではPREとPROを一つ、否定のIN, UN, DIS, DEをひとくくりにしたので、11個となっています。

 1) AD-/AF-(・・・の方向に)    afferent(医:神経が中枢に向かう)、
 2) CIRCUM-(・・・のまわり)    circumference(円周)、
 3) COM-/CON-(いっしょに)  conference(会議)、

 4) DE-/DI-(から離れて)     defer(譲る)
 5) DIS-(分離、反対)      differ(相違する)
 6) E-/EX-(外へ)        efferent(医:遠心性神経の)

 7) IN-(の中へ、の中に)    infer(推論する)、

 8) INTER=(の間に)      interfere(干渉する)、

 9) OB-/OF-(の前に)       offer(申し出る)

10) PER-(完全に)、     (特に派生語は見当たらず)

11) PRE-(あらかじめ)      prefer(の方を好む)、

12) PRO-(前方へ、賛成)    proffer(提供する)、

13) RE-(再び、戻って)    refer(参照する)、

14) SUB-/SUF-(下の下から)  suffer(苦しむ)、
15) SUPER-(上方に)、   (特に派生語は見当たらず)

16) TRANS-(横切って)    transfer(輸送する)

 

 接頭辞とferreの組み合わせにある医学用語afferent, efferentは近代になって取り入れたものです。またPER-, SUPER-にはferreと組み合わせた単語が見当たりませんね。


 理論的な組み合わせは 掛け算になるので16(接頭辞)x600(語根)=9600個の単語(動詞)ができることになります。さらに動詞からは名詞、形容詞、副詞が派生する可能性があるので 9600x4=38400語ができます。(理論上はね)。


 実際にはひとつの語根に対して16の接頭辞全部が使われることはないので、歯抜けになっています。それぞれの動詞ににふさわしい接頭辞が組み合わされて単語が作られているのですね。


 以下の①から⑰までがはラテン語です。『単語耳 Lv.3』P225参照。

ラテン語にはお馴染みがなくてもチラッと見てやってください。①admitto/-/-/admissum の表記は最初のadmittoがラテン語動詞の現在形の第一人称形、admissumが過去完了に相当する形です。ラテン語の活用に関しては「語源の窓」第8話をご覧ください。

 この17個は、L.mittereに接頭辞を付けた単語です。イタリア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語などにほぼそのままで使われています。英語以外の言葉の中にこれらが見つかると、意味が分かります。なので英語以外の言語にも興味を持っていただけると嬉しいです。

 


 以下は本の中の解説です。mitを語根に持つ単語を覚えやすいように「架空の城壁の町A」の小話にしたものです。

f:id:gogen_wisdom:20170330100636j:plain

松澤記
http://amzn.to/2nlVFbQ

f:id:gogen_wisdom:20170330102312p:plain

あわせてどうぞ

日本語と英語をつなぐ


Gogengo!


語源の窓 第7話

語源でつながる英仏単語


 第二外国語に仏、西、伊語を学習している人に朗報です。
英語と日本語の違いと比較すると英語と仏・西・伊語は大阪弁と東京弁くらいに近い関係です。英米人は日本人が英語を学ぶための労力の10分の1以下で仏語や西、伊語をマスターしているのです。


 このことは具体的に語源をもとに英仏単語を比較すると納得できます。
例えばラテン語のvenire(来る)を語源とする英単語44個に仏単語を当てはめてみると40個以上(90%)が同じ単語に見えます。(注1)

 Venireのようにラテン語を語源とするほとんどの英単語にはペアとなる仏単語が存在します。したがって英語と仏語はそっくりだと思いませんか。コラムでは動詞を中心に取り上げていますが動詞以外の品詞も同様にそっくりなのです。

 伊語(イタリア語)と西語(スペイン語)の関係は英仏の関係よりも更に近い位置にあります。以下は似ている単語の例です。ラテン、伊、西、仏、英語の順に並べました。

  • familia(家族), famiglia(伊), familia(西), famille(仏), family(英)
  • comprehendere(理解する), comprendere, comprender, comprendre, comprehend
  • victoria(勝利), vittoria, victoria, victoire, victory

今回は英語以外に仏語、伊語、西語などに興味を持っていただければ
幸いです。

 

注1:ラテン語Venire(来る)から派生した英単語と仏単語の類似性

下の表はラテン語Venire(来る)という単語から派生した英単語と仏単語の比較です。Venireは語源辞典の 頻度別TOP27位の単語です。44個の英単語のうち仏単語に合致するものは40単語以上あります。実に90%以上が 英語と仏語の単語が同じだということです。もちろん発音が異なりスペルが微妙に違いますが。

#EnglishFrenchMeanings
1 advent Avent, avènement 出現(神の)、到来ad=to
2 adventitious adventice (要素などが)外来の、偶発的な
3 adventive adventice (動植物などが)外来の
4 adventure aventure 冒険、投機
5 adventurer aventurier 、ere 冒険家 ad=to
6 adventurous aventureux、euse 冒険的な、大胆な ad=to
7 avenue avenue 並木道、大通り a(d)=to(・・に来る道)
8 circumvent circonvenir ・・・を迂回する、(法の)抜け道を見つける
9 contravene contrevenir (法などを)犯す、に違反する
10 contravention contrevenant 違反、(主義などの)矛盾
11 convene convoquer 招集する、集まる con=(共に)
12 convenience convenance都合、礼儀 便利 con=together(共に集まれば何かと便利)
13 inconvenience inconvénient 不便、不都合
14 convenient convenable適切な 便利な、都合の良い con=together
15 inconvenient inconvénieznt 不便な、不自由な
16 convent convent 尼僧院 con=together集まっている
17 convention convention 集会、招集、会合、協定 con=together
18 conventional conventionnel、le 会合の、慣例の、型にはまった、月並みな
19 covenant convention 契約、盟約
20 event événement 出来事、事件e(x)=out(起こり来るもの)
21 eventful éventuel できごとの多い
22 eventual éventuel、le 最終的には、来るべき、将来起こるべき
23 eventually éventuellement 結局は、いつかは
24 eventuate 該当なし? ・・の結果になる、結局・・・に終わる
25 intervene intervenir 干渉する、調停する inter=between間に
26 intervention intervention 干渉、介入、調停 inter=間に
27 invent inventer 発明するin=on、 出くわす、行き当たる(思い付く)
28 inventor inventeur、trice 発明家 in=on
29 invention invention 発明in=on
30 inventive inventif、ive 発明の才のある in=on
31 inventory inventaire 財産目録、棚卸し資産
32 prevent prévenir 妨げる、未然に防ぐ pre=before(事)前に
33 prevention prévention 予防、妨害、阻止 pre=前に
34 preventive préventif、ive 予防的 pre=前に
35 provenance provenance 起源、出所 L.pro=forth
36 revenant revenant、ante 再来者、(現世を訪れた)霊魂、幽霊
37 revenue revenu 歳入、収入源 re=backもとに(戻る金)
38 souvenir souvenir 土産、記念品 sou-=sub-=under心に近く来る
39 subvene subvenir 救済にあらわれる、助け船を出す L.sub=under
40 subvention subvention 救済、援助、(政府の)補助金
41 supervene survenir突発する 付随して起こる、続発する、併発する
42 supervention survenir 付随、続発、併発
43 venture aventure 冒険、adventureからadが落ちた
44 venue venue来る事、到着 裁判地(陪審裁判の)

 

宿題

3つの英単語「accessory」「exceed」「precedent」の語源は何でしょうか?
答えは次の第8話にあります。

松澤記

 

あわせてどうぞ

Gogengo!


語源の窓 第8話

同じ語源でもスペルが違うのはなぜ

 

agentとaction
agent(エージェント)とact(行為)はともにラテン語agere(為す)が語源ですが、全てがage-のスペルではなくactのように「t」を持つものがあります。

 

procedureとexceed

exceed, excessはラテン語cedere(行く)から来ていますがexcessにはssが入っています。


今回は役に立つワンポイントとしてtやssがよく使われる理由です。原因はラテン語の過去分詞形のスペルです。ラテン語辞書の動詞には以下のように4つの変化形が表記されています。

 

agentとaction

ラテン語辞典でagereをひくと見出しに以下の4つの語が書かれています。
ago, agere, egi(現在完了), actum(完了分詞)「為す」


agoは1人称現在形単数形、つまり「私は」が主語のときのスペルです。

 

procedureとexceed

ラテン語辞典でcedereをひくと以下のように表記してあります。
cedo, cedere, cessi(現在完了), cessum(完了分詞)「行く」


接頭辞ex-をcedereに付けた語も同じ変化をします。
excedo, excedere, excessi, excessum「外に行く、境界を越えてゆく」

 

完了分詞(英語の過去分詞)形に注目してください。過去分詞には「t」または「ss」が現れます。


このように英単語に「t」や「ss」が含まれている場合は、元になるラテン語が過去分詞形なので「なされたこと」というイメージが含まれます。
action(なされた行為)という具合です。


これに対して現在形のスペルはagenda「議題」(これから行うべきこと)というふうに現在のことに関する単語に使用します。


excess「過度」は(行き過ぎてしまったために「過度」という意味)つまり「過度」は結果なので、ラテン語の過去分詞のスペル「ss」を使っています。

 

現在のことを言う「超過する、勝る」にはexceedとラテン語の現在形のスペルが使われます。

 

ちなみにexceedはラテン語の現在形では excedereというスペルでした。

今回は同じ語源の英単語でも「t」「ss」を持つものと、持たないものがある理由を説明しました。

f:id:gogen_wisdom:20170327013007p:plain

宿題の答え

 3つの英単語「accessory」「exceed」「precedent」は、ラテン語cedere「行く」の派生語です。

accessoryはac-(の方に)+cess(行った)が元の意味。主人の方に行くので「従者」・付属する従属物の意。

exceedはex-(超えて)+ceed(行く)。

precedentはpre-(先に)+cede(行く)+-ent(ことがら・人)「先例」です。

f:id:gogen_wisdom:20170331145325p:plain

predecessorは先に行く人、successorは後から来る人のイメージです。


松澤記

 

あわせてどうぞ

Gogengo!