語源の広場

『英語耳』松澤喜好、『日本語と英語をつなぐ』すずきひろし、『Gogengo!』角掛拓未が送る、英語の語源をさまざまな切り口でお伝えするコンテンツです。

語源の窓 第7話

語源でつながる英仏単語


 第二外国語に仏、西、伊語を学習している人に朗報です。
英語と日本語の違いと比較すると英語と仏・西・伊語は大阪弁と東京弁くらいに近い関係です。英米人は日本人が英語を学ぶための労力の10分の1以下で仏語や西、伊語をマスターしているのです。


 このことは具体的に語源をもとに英仏単語を比較すると納得できます。
例えばラテン語のvenire(来る)を語源とする英単語44個に仏単語を当てはめてみると40個以上(90%)が同じ単語に見えます。(注1)

 Venireのようにラテン語を語源とするほとんどの英単語にはペアとなる仏単語が存在します。したがって英語と仏語はそっくりだと思いませんか。コラムでは動詞を中心に取り上げていますが動詞以外の品詞も同様にそっくりなのです。

 伊語(イタリア語)と西語(スペイン語)の関係は英仏の関係よりも更に近い位置にあります。以下は似ている単語の例です。ラテン、伊、西、仏、英語の順に並べました。

  • familia(家族), famiglia(伊), familia(西), famille(仏), family(英)
  • comprehendere(理解する), comprendere, comprender, comprendre, comprehend
  • victoria(勝利), vittoria, victoria, victoire, victory

今回は英語以外に仏語、伊語、西語などに興味を持っていただければ
幸いです。

 

注1:ラテン語Venire(来る)から派生した英単語と仏単語の類似性

下の表はラテン語Venire(来る)という単語から派生した英単語と仏単語の比較です。Venireは語源辞典の 頻度別TOP27位の単語です。44個の英単語のうち仏単語に合致するものは40単語以上あります。実に90%以上が 英語と仏語の単語が同じだということです。もちろん発音が異なりスペルが微妙に違いますが。

#EnglishFrenchMeanings
1 advent Avent, avènement 出現(神の)、到来ad=to
2 adventitious adventice (要素などが)外来の、偶発的な
3 adventive adventice (動植物などが)外来の
4 adventure aventure 冒険、投機
5 adventurer aventurier 、ere 冒険家 ad=to
6 adventurous aventureux、euse 冒険的な、大胆な ad=to
7 avenue avenue 並木道、大通り a(d)=to(・・に来る道)
8 circumvent circonvenir ・・・を迂回する、(法の)抜け道を見つける
9 contravene contrevenir (法などを)犯す、に違反する
10 contravention contrevenant 違反、(主義などの)矛盾
11 convene convoquer 招集する、集まる con=(共に)
12 convenience convenance都合、礼儀 便利 con=together(共に集まれば何かと便利)
13 inconvenience inconvénient 不便、不都合
14 convenient convenable適切な 便利な、都合の良い con=together
15 inconvenient inconvénieznt 不便な、不自由な
16 convent convent 尼僧院 con=together集まっている
17 convention convention 集会、招集、会合、協定 con=together
18 conventional conventionnel、le 会合の、慣例の、型にはまった、月並みな
19 covenant convention 契約、盟約
20 event événement 出来事、事件e(x)=out(起こり来るもの)
21 eventful éventuel できごとの多い
22 eventual éventuel、le 最終的には、来るべき、将来起こるべき
23 eventually éventuellement 結局は、いつかは
24 eventuate 該当なし? ・・の結果になる、結局・・・に終わる
25 intervene intervenir 干渉する、調停する inter=between間に
26 intervention intervention 干渉、介入、調停 inter=間に
27 invent inventer 発明するin=on、 出くわす、行き当たる(思い付く)
28 inventor inventeur、trice 発明家 in=on
29 invention invention 発明in=on
30 inventive inventif、ive 発明の才のある in=on
31 inventory inventaire 財産目録、棚卸し資産
32 prevent prévenir 妨げる、未然に防ぐ pre=before(事)前に
33 prevention prévention 予防、妨害、阻止 pre=前に
34 preventive préventif、ive 予防的 pre=前に
35 provenance provenance 起源、出所 L.pro=forth
36 revenant revenant、ante 再来者、(現世を訪れた)霊魂、幽霊
37 revenue revenu 歳入、収入源 re=backもとに(戻る金)
38 souvenir souvenir 土産、記念品 sou-=sub-=under心に近く来る
39 subvene subvenir 救済にあらわれる、助け船を出す L.sub=under
40 subvention subvention 救済、援助、(政府の)補助金
41 supervene survenir突発する 付随して起こる、続発する、併発する
42 supervention survenir 付随、続発、併発
43 venture aventure 冒険、adventureからadが落ちた
44 venue venue来る事、到着 裁判地(陪審裁判の)

 

宿題

3つの英単語「accessory」「exceed」「precedent」の語源は何でしょうか?
答えは次の第8話にあります。

松澤記

 

あわせてどうぞ

Gogengo!


語源の窓 第8話

同じ語源でもスペルが違うのはなぜ

 

agentとaction
agent(エージェント)とact(行為)はともにラテン語agere(為す)が語源ですが、全てがage-のスペルではなくactのように「t」を持つものがあります。

 

procedureとexceed

exceed, excessはラテン語cedere(行く)から来ていますがexcessにはssが入っています。


今回は役に立つワンポイントとしてtやssがよく使われる理由です。原因はラテン語の過去分詞形のスペルです。ラテン語辞書の動詞には以下のように4つの変化形が表記されています。

 

agentとaction

ラテン語辞典でagereをひくと見出しに以下の4つの語が書かれています。
ago, agere, egi(現在完了), actum(完了分詞)「為す」


agoは1人称現在形単数形、つまり「私は」が主語のときのスペルです。

 

procedureとexceed

ラテン語辞典でcedereをひくと以下のように表記してあります。
cedo, cedere, cessi(現在完了), cessum(完了分詞)「行く」


接頭辞ex-をcedereに付けた語も同じ変化をします。
excedo, excedere, excessi, excessum「外に行く、境界を越えてゆく」

 

完了分詞(英語の過去分詞)形に注目してください。過去分詞には「t」または「ss」が現れます。


このように英単語に「t」や「ss」が含まれている場合は、元になるラテン語が過去分詞形なので「なされたこと」というイメージが含まれます。
action(なされた行為)という具合です。


これに対して現在形のスペルはagenda「議題」(これから行うべきこと)というふうに現在のことに関する単語に使用します。


excess「過度」は(行き過ぎてしまったために「過度」という意味)つまり「過度」は結果なので、ラテン語の過去分詞のスペル「ss」を使っています。

 

現在のことを言う「超過する、勝る」にはexceedとラテン語の現在形のスペルが使われます。

 

ちなみにexceedはラテン語の現在形では excedereというスペルでした。

今回は同じ語源の英単語でも「t」「ss」を持つものと、持たないものがある理由を説明しました。

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宿題の答え

 3つの英単語「accessory」「exceed」「precedent」は、ラテン語cedere「行く」の派生語です。

accessoryはac-(の方に)+cess(行った)が元の意味。主人の方に行くので「従者」・付属する従属物の意。

exceedはex-(超えて)+ceed(行く)。

precedentはpre-(先に)+cede(行く)+-ent(ことがら・人)「先例」です。

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predecessorは先に行く人、successorは後から来る人のイメージです。


松澤記

 

あわせてどうぞ

Gogengo!


語源の窓 第9話

語源の説明がある辞書


語源が出ている辞書はどれがいいの?とよく聞かれます。今回は前回出題した英単語を使って、辞書にはどのように語源の説明があるのか見てゆきます。


「construct(建設する)」「destroy(破壊する)」「instruct(指導する)」は、ラテン語struere「建てる、積み重ねる」の派生語です。


「ジーニアス英和大辞典」のconstructの語源は『初17c;ラテン語constructus(組み立てた)。con-(一緒に)+struct(積み上げる)』とあります。単語の意味の最初に語源の欄があるので、僕が重宝している辞典です。電子辞書で活用しています。

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 辞書の語源の説明にある「初17c」は初めて使われたのが17世紀の意味です。接頭辞の意味de-(一緒に)も書いてありますね。ラテン語constructusも明記されています。destroyの語源は『初13c;ラテン語destruere.「de-(下へ)+stroy(建てる=structure)=取り壊す」』
instructの語源は『初15c:ラテン語instructus(築いた、教えた)「in-(中に)+-struct(建てる、築く=心の中に築く)→「教える」』

 

英英ではThe Concise Oxfordを見てみましょう。
constructは『L.construct-, construere"heap together, build",
from con-"together"+struere"pile, build"』。

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解読するとL.はラテン語のことでconstruct-(過去分詞形)の原形がconstruereで、その意味は"heap together, build 積み重ねる、建てる"です。


destroyは『OFr. destruire, based on L. destruct-, destruere, from de- (expressing reversal)+struere "build".』解読すると destroyはOld French(古仏語)のdestruireから来ていて、そのもとはラテン語のdestruct-,原形はdestruere, de-(逆の意)
+struere”建てる”とあります。

 読者がde-(逆の意)+(建てる)から「崩す」を連想できるためには慣れが要求されます。

 

僕は、Merriam-Webster's Colligiate Dictionaryを良く使います。Freeで見れるWEB辞書があるので使ってみてください。

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 「研究社新英和大辞典」の語源の説明は英語で書かれています。語源に慣れた上級者向けです。語源の説明は、意味の説明の最後の部分にあります。

 

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講談社の英和中辞典EJ」のconstructには『L com-集めて+struere積み重ねる、建てる→√stru-」』とあります。(→√stru-は辞書の巻末に単語リストがあるという意味です。)

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destroyは『OF.<L.de-+struere建てる→√stru-』instructは『L. instruere築き
上げる<in-+struere積み上げる;→√stru-』


 「研究社の新英和中辞典第7版」のconstructの語源説明は『L<CON-+struere, struct-立てる、積み重ねる、建てる』とあります。またdestroyは『F<L=壊す、引き倒す<DE-+struere, struct-積み重ねる、建てる』とあります。

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 英和中辞典ではスペースの関係でほとんどの接頭辞に意味がついていません。でも心配する必要はありません。重要な11個の接頭辞は「黄金の接頭辞」で学べます。英単語で見かける接頭辞はせいぜい20種類なのですぐに慣れます。


 個人的にはジーニアス英和大辞典がおすすめですが、高価です。お持ちの電子辞書に入っていたら、ぜひ活用してください。


 英和中辞典では講談社をおすすめしますが、他にも良いものがあるので本屋で自分で引いてみてイメージが湧きやすいものを選ぶと良いのではないでしょうか・
松澤記