「語源辞典」誕生物語
SPACE ALCに15年間提供していた「語源辞典」は以下のようにして誕生しました。僕と語源とのお付き合いの歴史でもあります。
僕は英単語を覚えるためには単語帳は作っていませんでした。大学受験以来、語源が出ている英和辞書をこまめに引いて語源の説明でイメージを作りながら意味と発音を学習していました。いまから思うと原始的な語源の学習を行っていたのです。
だんだんと語彙が増えるにつれて、物足りなくなってきました。大型の辞典を引くと同じ語根から発生した多くの単語があることに気づきますが、アルファベット順に単語が並んでいるので、語源ごとにはまとまっていません。語源の参考書を見ましたが単語数が少なくてもの足りない。大きな語源辞典もありますが、それもアルファベット順に単語が並んでいます。紙の辞書では同じ語源の単語を探すことは困難でした。
1980年代になるとパソコンが普及し始めました。まずは職場からでした。1980年後半頃から私自身の語彙学習のため、英単語を語源別にパソコンに打込んでいました。電子データは編集ができるからです。単語の並べ替えもできるので、ようやく単語帳を作ろうという気持ちになりました。プリントも出来ます。今では当たり前ですが。
1994年発売の講談社「英和中辞典」(注1)をもとに「語源辞典」のデータ作成が加速しました。表紙に大きくEJと書いてあるこの辞典にはとても感謝しています。
この辞典の末尾には約460個の語根表と、そこから派生した英単語が約3000語リストにしてあったからです。僕の単語帳データの内容も500ほどの語根をもとに語彙がイッキに増えていきました。
PCにもマイクロソフトのWindowsの導入がはじまり、マイクロソフトのOfficeにある「ワード」「エクセル」が使われはじめました。マイクロソフトのエクセルを使い込んでいくうちに、その検索機能が語源のグループをまとめるために使えると考えて嬉しくなりました。僕の電子単語帳もエクセルにデータを作りました。
エクセルのデータ作りは、講談社「英和中辞典」の各単語にある語源の情報を活用しました。結局、収録語彙140,000語を最初から最後まで読んでエクセルのデーターベースを作成しました。(こういう根気はあったのですね。)やがて、約600の語源(語根)と紐づけした約10,000語が登録されるまでに至りました。
データを見ると面白いことに気付きます。1つの語源から英単語が50以上派生しているものから、1つの英単語しか派生していないものまであります。「派生した単語の多い語源から学習することが英語の語彙習得に役立つ」という仮説のもとに、私のホームページに50個の語源を派生単語の多い順に公開していました。これが1999年にSPACE ALCの担当者の目に触れて2000年にオープンしたアルクのサイトに「語源辞典」を提供することになったのです。
僕が作ったエクセルのデータベースを無償で貸与して、アルクのエンジニアが検索ソフトをWEB上に作成しました。単語を入力すると、同じ語源の単語の一覧が表示されます。僕の作ったデータベースなので、個人的な語源学習を深めたり広げるために、そして本を書くためにとても役に立ちました。
アルクは2015年にサイトを全面リニューアルしました。そのときに「語源辞典」が残念ながらなくなりました。無償で提供していたので、私のサイトに移そうとしましたが、「ソフトウエアが古すぎて移植できないです。」と言われました。当時のエンジニアの方も退職していました。その後は、この「語源辞典」を復活したいと考えていましたが、なかなか良い候補が現れませんでした。
2016年になって、すずきひろし氏、角掛拓未氏と私の3人の語源に興味を持つ仲間が集まってチームを作りコラボすることになりました。その結果「語源の広場」が生まれました。
最初に語源に興味を持っていただくために、このコラム「語源の窓」と「語源辞典」のうちの派生語が多いTOP10の語源とその派生語1,000語を「黄金の語根」としてUPすることに至りました。いずれは、語彙を増やして「語源辞典」に近いものをと考えていますが・・・
語源のミニ知識
TOP10の第2位の語源fac, fact「する、作る」からは100個以上の
英単語が作られています。
以下の3つの英単語「manufacture」「office」「perfect」は、第2位の語源
であるラテン語facere「作る・為す」の派生語です。
●manufacture 「製造する」はmanu-(手で)+fact-(作る)+-ure(名詞語尾)と
分解できます。
●office 「オフィス」は、opus(仕事)+fice(する)、つまり仕事をする所と
いう意味です。
●perfect 「完全な」はper-(完全に)-fect(為す、する)となります。
松澤記
講談社「英和中辞典」(注1)