語源の広場

『英語耳』松澤喜好、『日本語と英語をつなぐ』すずきひろし、『Gogengo!』角掛拓未が送る、英語の語源をさまざまな切り口でお伝えするコンテンツです。

語源の窓 第1話

albatrossは目からウロコ!

 

 「語源の窓」にようこそ。「語源の窓」からは「語源の広場」がよく見えます。ローマの素敵なカフェで、豊かなコーフィータイムを過ごしている自分をご想像してください。思案にふけりながら、ときどき外を見て通りがかる人々のファッションやしぐさをぼんやりとながめる至福の時間。

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 「語源の窓」というコラムは全部で24話です。今回はその第一話です。


 第一話では、私がなぜ語源に興味を持ったのかについて書かせていただきます。私の語源歴です。過去に素敵な出会いがあって、今も続いています。

 私が語源に巡り合ったのは大学受験のときです。もう約50年も前の社会全体がのんびりとした時代でした。大学受験は、団塊の世代が多く大学入学率も急に増えたために、今よりも競争率はかなり高かったです。英語は有名国立大学に入るためには10,000単語を知らなければだめだとの認識がありました。

 受験参考書の一つに「語源による必須6000語の征服」(注1)という本を使いました。この「必須6000語」が、私に目からうろこが落ちる体験をさせてくれた私の英語語源学習のルーツです。

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 「pencil, peninsula, penisこの一見まったく無関係な単語はみんな『突き出る』という語源からきている」という前書きではじまるこの本には、6000の単語が250の語源の家族に分類してあります。

 250の語源のうち約150の語根から派生した単語が約3500語、接頭辞、接尾辞、人名地名からきた単語が約2500語あります。
 それまで受験勉強でがむしゃらに英単語を記憶しようとしていた私は当時いくつかの英単語が同じイメージでつながっていることなど知りませんでした。

 

 この本から強烈に印象に残ったもう1つの例があります。
 「albatross、alps、album」です。

さてこれらに共通するイメージは何でしょうか。

 

私が語源の威力を人に説明するときには、この例を使っています。

albatrossはゴルフをやる人にはイーグルよりすごいパーマイナス3として知られています。普通の語彙としては鳥の「アホウドリ」です。
alpsは雪に覆われたアルプスの山々のイメージです。albumは写真を整理するアルバムです。何もはっていない白紙の状態です。

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 答えは「白」です。alb-、alp-というスペルはalbus「白」というラテン語が共通の語源です。

 「えー、アホウドリは何で白なの?」

アホウドリは上から見ると色がついていますが、飛んでいるところを見ると白い印象になります。


 受験生だった私は英単語を何度覚えても忘れていました。ところがこの本を読んで「白」という語源と飛んでいるときの姿が思い浮かばれるのでalbatrossは決して意味を忘れることのない単語となったのです。ゴルフとも結びついて最強の記憶が出来て私にとって目からうろこが落ちた単語です。

 あくまでも私個人の感覚ですが、私の語彙習得に対して語源を活用して
単語の意味をイメージする場合には、その語の語源を知っていた場合と知らなかった場合を比べると、3割ぐらい効率が上がっていると思います。単語の訳を見るだけよりも、単語の深いイメージを形成するために有効です。

 

  現在、定年後で自由にできる時間が増えた私は海外ドラマを平均で毎日3時間ぐらい、毎年1,000時間以上の割合で楽しんでいます。
10年ほど前までは、毎年約1万ページのペースでペーパーバックを愛読していた時期もありました。(英語の読書に関しては現在、少し復活しています。)

 

 ①海外ドラマや洋画を英語で楽しむ、②ペーパーバックを楽しむ、③CNNなどのニュースを英語で理解する。そのためには、英語学習の早い時期に語彙を10,000語に増やしておくと①②③を楽しむスタートラインに立てます。楽しみながら、語彙がしっかり身に付きますます楽しくなります。語彙の壁10,000語を越えるためには「語源」を活用することがおおいに役立ちます。

 

 「語源の窓」という僕が書いたコラムは「アルク」のホームページに10年以上掲載されていました。「アルク」のホームページからは2015年頃のリニューアルの時に外されて絶版となりました。この24話は15年ほど前に書いたオリジナルの「語源の窓」に大幅に手を加えて「語源の広場」に合う内容を目指しました。

 

松澤記

 

 

注(1) 岩田一男/光文社 KAPPA BOOKS/1967年3月1日 初版発行
一度絶版になりましたが、「ちくま文庫」から購入できるようになりました。

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あわせてどうぞ

Gogengo!


語源の窓 第2話

400個の語源(黄金の語根)からなんと10,000個の英単語


 アルファベットを使う国の人々は漢字がとても複雑に思えます。
そんな英米人にも漢字の構造を説明するとものすごく興味を示します。
もしも、外国人との英会話で話題が無くなったら、ペンと紙(Appleではだめです)を用意してたとえば以下のように木偏(きへん)を教えてみてください。

 「木はtreeの意味です。」と言いながら「木」を書きます。
「では木を2つ並べると何?」と言いながら「林」を書きます。

「?」

「これは木がいくつか生えているbush(林)です。」

「なるほど、そうなんだ!」

「では木3つは?」と言いながら「森」を書きます。

「?」

「木が沢山あるのは森、forestですよね。」と説明すると、

「うーん合理的」とものすごく感心して興味を示してくれます。

この話題が受ける可能性はとても高いので試してみてください。

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 漢字は245の部首から約10,000の漢字が出来ています。(注1)

平均すると一つの部首から40の漢字ができていることになります。
サンズイや木編、手偏などでできている漢字は平均の40漢字をはるかに超えています。

 

 外国人が一生懸命漢字を覚えたとしましょう。漢字1,000個を覚えるためには大変な努力が必要です。例えばランダムに1,000個の漢字を覚えた外国人に、後から「へん、つくり、かんむり」のことを教えたとします。「木編は木に関係する単語、サンズイは水に関係する単語、手偏は手に関係する単語などなどです。」

へん、つくり、かんむりのことを何で最初に教えてくれなかったの?」と言ってその外国人はとても怒るかもしれません。「もっと効率よく学習できたのに」と言って悔しがるかもしれません。学習していく途中で「へん、つくり、かんむり」の存在に気付いてはいくと思われますが、最初か適当な時期に教えてもらうと学習の効率があがります。

 

 スペースアルクに僕が15年間(無償で)提供していたページに「語源辞典」がありました。「語源辞典」には約10,000語を登録してありました。単語を入力すると、同じ語源の単語がズラーっと出てきます。その語源は約600語ですので、600の語源から10,000語が派生した様子を見ることが出来ました。600語は語根です。接頭辞・接尾辞は600語に含んでいません。語源というと難しいと感じられますが、漢字の偏のようなものと考えてください。この「語源辞典」は2015年ごろのリニューアルの時に削除されました。何らかの形でこの「語源の広場」に復活させたいと考えています。【語源ランキングTOP10】のページは「語源辞典」の形を変えたものです。

 

  ●2021年3月25日現在は、「黄金の語根」には、400を超えた語根をリストしてあります。派生した単語は10,000語を越えています。つまり、400個のラテン語を知ると、10,000語の英単語を関連付けて記憶できます。

 

 僕の個人的な想像ですが、漢字もラテン語も20,000年ぐらい??前に数百の基本的な概念から出発してだんだんと複雑に語彙を増やしていったと考えられます。英単語を征服するぞーと鉢巻をして10,000語をランダムに覚えようとしても無謀です。基本的な概念に戻って、その派生していった様子を追いながらグループで関連づけて学習するほうが長く記憶に残ります。

 基本的な概念という視点から漢字の部首と英語の語源(ラテン語)を比較すると面白いことに気がつきます。

 

 漢字の部首は自然界にあるものと体の部分です。

例:木、水、草、月、日、火、土、目、口、人、手、心

 

 漢字に対してラテン語の語源は動作です。(注2)
例:立つ、作る、捕まえる、重ねる、回す、見る、支配する、置く、する、行く。


 カルチャーの違いが出ていると思いませんか。語源の違いからしても、漢字は農耕民族、ラテン語は狩猟民族と言えるかもしれません。

 

 【語源ランキングTOP10】のページではsta-,-sti-,stat, sist-というスペルを持つ単語の語源がランキングの第一位になっています。ではその単語の例を挙げてみましょう。語源はラテン語のstare「立つ」です。

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●assistant「アシスタント」はas-(側に)sist-(立つ)-ant(人)つまり
そばに立って世話をする人のこと。

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●instant 「即座の」はin-(中に、そこに)sta-(立って)-(a)nt(いる)、
つまり部屋の中などで待機して待っている状態です。即座に行動に移れる状態です。
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●station 「駅」はsta-(立つ)-(a)tion(状態、結果)つまり立って待つ

ように決められた場所、「馬車の駅」という意味です。「部署」という
意味もあります。

 


注(1)角川新字源改訂版/角川書店/1994年11月10日改訂版初版
注(2)語源が「動作」を表している動詞でできていることは【語源ランキン
グTOP10】を参考にご覧下さい。
松澤記

 

あわせてどうぞ

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語源の窓 第3話

「語源辞典」誕生物語


 
 SPACE ALCに15年間提供していた「語源辞典」は以下のようにして誕生しました。僕と語源とのお付き合いの歴史でもあります。

 

 僕は英単語を覚えるためには単語帳は作っていませんでした。大学受験以来、語源が出ている英和辞書をこまめに引いて語源の説明でイメージを作りながら意味と発音を学習していました。いまから思うと原始的な語源の学習を行っていたのです。

 

 だんだんと語彙が増えるにつれて、物足りなくなってきました。大型の辞典を引くと同じ語根から発生した多くの単語があることに気づきますが、アルファベット順に単語が並んでいるので、語源ごとにはまとまっていません。語源の参考書を見ましたが単語数が少なくてもの足りない。大きな語源辞典もありますが、それもアルファベット順に単語が並んでいます。紙の辞書では同じ語源の単語を探すことは困難でした。

 

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 1980年代になるとパソコンが普及し始めました。まずは職場からでした。1980年後半頃から私自身の語彙学習のため、英単語を語源別にパソコンに打込んでいました。電子データは編集ができるからです。単語の並べ替えもできるので、ようやく単語帳を作ろうという気持ちになりました。プリントも出来ます。今では当たり前ですが。

 

 1994年発売の講談社「英和中辞典」(注1)をもとに「語源辞典」のデータ作成が加速しました。表紙に大きくEJと書いてあるこの辞典にはとても感謝しています。

この辞典の末尾には約460個の語根表と、そこから派生した英単語が約3000語リストにしてあったからです。僕の単語帳データの内容も500ほどの語根をもとに語彙がイッキに増えていきました。

 

 PCにもマイクロソフトのWindowsの導入がはじまり、マイクロソフトのOfficeにある「ワード」「エクセル」が使われはじめました。マイクロソフトのエクセルを使い込んでいくうちに、その検索機能が語源のグループをまとめるために使えると考えて嬉しくなりました。僕の電子単語帳もエクセルにデータを作りました。

 

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 エクセルのデータ作りは、講談社「英和中辞典」の各単語にある語源の情報を活用しました。結局、収録語彙140,000語を最初から最後まで読んでエクセルのデーターベースを作成しました。(こういう根気はあったのですね。)やがて、約600の語源(語根)と紐づけした約10,000語が登録されるまでに至りました。

 

 データを見ると面白いことに気付きます。1つの語源から英単語が50以上派生しているものから、1つの英単語しか派生していないものまであります。「派生した単語の多い語源から学習することが英語の語彙習得に役立つ」という仮説のもとに、私のホームページに50個の語源を派生単語の多い順に公開していました。これが1999年にSPACE ALCの担当者の目に触れて2000年にオープンしたアルクのサイトに「語源辞典」を提供することになったのです。

 

 僕が作ったエクセルのデータベースを無償で貸与して、アルクのエンジニアが検索ソフトをWEB上に作成しました。単語を入力すると、同じ語源の単語の一覧が表示されます。僕の作ったデータベースなので、個人的な語源学習を深めたり広げるために、そして本を書くためにとても役に立ちました。

 

 アルクは2015年にサイトを全面リニューアルしました。そのときに「語源辞典」が残念ながらなくなりました。無償で提供していたので、私のサイトに移そうとしましたが、「ソフトウエアが古すぎて移植できないです。」と言われました。当時のエンジニアの方も退職していました。その後は、この「語源辞典」を復活したいと考えていましたが、なかなか良い候補が現れませんでした。

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 2016年になって、すずきひろし氏、角掛拓未氏と私の3人の語源に興味を持つ仲間が集まってチームを作りコラボすることになりました。その結果「語源の広場」が生まれました。

 最初に語源に興味を持っていただくために、このコラム「語源の窓」と「語源辞典」のうちの派生語が多いTOP10の語源とその派生語1,000語を「黄金の語根」としてUPすることに至りました。いずれは、語彙を増やして「語源辞典」に近いものをと考えていますが・・・

 

語源のミニ知識

 TOP10の第2位の語源fac, fact「する、作る」からは100個以上の
英単語が作られています。

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 以下の3つの英単語「manufacture」「office」「perfect」は、第2位の語源

であるラテン語facere「作る・為す」の派生語です。
●manufacture 「製造する」はmanu-(手で)+fact-(作る)+-ure(名詞語尾)と
分解できます。


●office 「オフィス」は、opus(仕事)+fice(する)、つまり仕事をする所と
いう意味です。


●perfect 「完全な」はper-(完全に)-fect(為す、する)となります。
松澤記

 

講談社「英和中辞典」(注1)

http://amzn.to/2nXFotu

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